USBメモリは、カメラやスマートフォンで撮りためた写真、出先で使う書類など、日々のデータを手軽に持ち運ぶための道具として広く使われています。差し込んでドラッグするだけでファイルが動く。そのシンプルな操作感が、長く愛用される理由のひとつでしょう。
ただ、その「慣れた操作」のなかに、データがどちらからも消えてしまうリスクが静かに潜んでいることがあります。
データ復旧の仕事をしているなかで、ご相談をいただく事例として決して少なくないのが、USBメモリからパソコンへファイルを「移動」した際に、USBメモリ側にもパソコン側にもデータが残らなかった、というトラブルです。「操作が終わったと思ったのに、どちらにもない」という状況は、当店でもたびたび経験してきました。今回ご紹介するケースもそのひとつで、データ復旧は成功しています。何が起きていたのかを、このコラムにまとめました。
「ファイルを移動したんですが消えてしまって」USBにもPCにも見当たらない

お電話でのお問い合わせで、落ち着いた声でしたが、言葉の端々に困惑が滲んでいました。
「USBメモリに入っていた写真を、パソコンに移動しようとしたんです。操作が終わったと思ってUSBを確認したら、写真がなくなっていて。パソコンにも保存されていなくて……」
仕事でWebサイト用に撮りためていた写真素材で、なくなってしまったためにWebの更新が止まっている状況とのことでした。別のパソコンに挿し直して確認しても、やはりデータは見当たらず、お手元でできる確認はひと通り試された後で、当店にご連絡いただいたということです。
WindowsがUSBとPCの間で「移動」をするとき内側では2段階の処理が走っている
「移動」という操作は、感覚的には「ファイルの場所が変わっただけ」と思いがちです。しかし、USBメモリからパソコンへという、別々の記憶媒体をまたぐ転送では、Windowsは内部で「まず移動先にファイルをコピーし、コピーが終わったら移動元のファイルを削除する」という2段階の処理をおこなっています。
同じパソコン内のフォルダ間でファイルを移動するときは、実体データを動かすのではなく、ファイルがどこにあるかという管理情報を書き換えるだけで済むため、ほぼ瞬時に終わります。USB→パソコン間の移動はそれとは異なり、実際にデータを転送してから削除するという手順を踏んでいます。
「コピー」との違いはこの点にあります。コピーであれば転送が完了した後もUSBメモリ側にデータが残りますが、移動の場合はコピー完了後に元ファイルの削除が走る仕組みになっているため、処理の途中で何かが起きたときに、両方から消えてしまう状況が生まれやすくなります。
書き込みが完了しないまま元データが消去されることがあるファイルシステム破損という落とし穴
USBメモリ内部のデータは、「どのファイルがどこに記録されているか」という管理情報と、ファイルの実体データの2層構造で成り立っています。
移動操作の途中でUSBメモリへの書き込みにエラーが発生したり、処理が不完全なまま中断されたりすると、この管理情報が壊れた状態になります。Windowsはファイルを表示する際にこの管理情報を参照するため、管理情報が乱れると、USBメモリを挿し直しても「空」と表示されるようになります。実際のデータは記録されたまま残っていても、Windowsにはそれが見えない状態になるわけです。
当店でこうした状態のUSBメモリを見てきた経験からすると、移動操作の途中でアクセスランプが点滅したまま止まったり、転送の画面が突然消えたりした直前の様子が報告されるケースが多くあります。操作が完了したように見えても、実際にはWindowsが転送を正常に終えられていなかった、ということです。
こうした状況でやってしまいがちなのが、「別のパソコンで確認してみる」「抜き差しを繰り返す」という操作です。管理情報が不安定な状態のUSBメモリに繰り返し通電することで、残っているデータの状態がさらに悪化することがあります。「もしかして直るかもしれない」という気持ちは自然ですが、できる限り操作を止めて早めに専門の業者に確認してもらうことが、データを守ることにつながります。
お預かりしたUSBメモリが示していた状態と復旧作業の経過
宅配便でお送りいただいたUSBメモリを確認したところ、管理情報の一部に乱れがあることが分かりました。ファイルの実体データは記録されたまま残っており、Windowsに「空」と表示されていたのは、管理情報が正常に読み取れない状態になっていたためでした。
ファイルがどの範囲まで残っているか、損傷がどこまで及んでいるかを慎重に確認しながら作業を進め、写真素材のデータを取り出すことができました。
今回復旧できた要因のひとつとして、ご自身でデータ復旧をおこなわずに早めにご相談いただいたことが大きかったと感じています。管理情報が乱れた状態のUSBメモリに対し、市販や無料のデータ復旧用ソフトウェアで繰り返しアクセスをおこなうと、残っているデータがさらに傷むことがあります。当店でこうした状態のUSBメモリを見てきた経験からすると、自己流で復旧を試みた後にご相談いただくケースでは、最初にご依頼いただくよりも取り出せる情報が減っていたり、復旧できなかったりすることが少なくありません。
データが戻ったとご連絡した際、お客様の第一声は「本当に戻るんですね……」というものでした。「もう無理だと思っていた」とおっしゃっていた言葉が、少し胸に残っています。
「移動」ではなく「コピー後に削除」という順番が写真を守る
今回のケースを振り返ると、「移動」という操作そのものが悪いわけではありません。ただ、移動はコピーと削除を一連の流れでおこなう操作であるため、途中で何かが起きたときに両方へ影響が出やすいという特性があります。
大切な写真や書類をUSBメモリからパソコンへ移すときに持っておきたい習慣があるとすれば、「まずコピーし、パソコン側でデータを確認してから、USBメモリ側を削除する」という順番です。手順が一段階増えますが、パソコン側でファイルが正常に確認できてから削除するため、万一コピーに問題があっても元のデータがUSBメモリに残っています。撮りかえのきかない写真や、時間をかけて作成した大切なファイルを扱うときほど、この順番が安心につながります。
もう一点、USBメモリは「データを持ち運ぶための道具」であり、長期保存には向いていない媒体です。大切な写真や書類をUSBメモリ1本だけに保管している場合は、パソコン本体や別の場所にも保存しておくことを、改めてお勧めしたいと思います。
もしUSBメモリのデータが突然見えなくなった場合は、それ以上の操作を控えて、早めにご相談ください。当店では宅配便でのお受け付けもおこなっていますので、北海道内はもちろん、遠方の方もお気軽にどうぞ。ご相談・お問い合わせはこちらから承っています。
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