陸上自衛隊の機密を1年近くむしばんだUSBが、今日もネット通販の棚に並んでいる

2026年6月、日本経済新聞が報じた内容は、多くの方が驚かれたのではないかと思います。陸上自衛隊の機密システム端末に、ウイルスに感染したUSBメモリが接続されたまま、1年近くにわたって使われ続けていたというのです。
その感染源は、特殊な攻撃ツールでも高度なハッキング技術でもなく、大手のネット通販サイトで相場の半値ほどで販売されていた中国製のUSBメモリで、見た目は普通の製品と変わらない、ごく一般的な商品でした。報道によれば、同種の製品は今もなお、個人や企業向けに広く流通しているとのことです。
この報道が明らかにしたのは、特定の組織だけが直面しているリスクではなく、格安のUSBメモリという製品そのものが抱える、もっと根本的な問題があります。データ復旧の仕事をしている立場から、改めて考えてみたいと思います。
偽装品を開けると、高速メモリチップのはずの場所に別の部品が仕込まれていることがある
今回の事案で報じられた偽装USBを分解すると、中に入っていたのは本来あるべき高速なメモリチップではなく安価なマイクロSDカードで、外側のケースだけが「USBメモリ」の形をしていて、中身はまったく別の部品で構成されていたとされています。
当店では、コネクタ部分の破損や基板のトラブルでデータが取り出せなくなったUSBメモリを預かり、内部を確認しながら作業を進めることがあります。そうした経験からすると、格安のUSBメモリの中身は見た目から想像するよりも粗末で、信頼できるメーカーの製品と価格を下げることだけを目的に製造された製品とでは、使われている部品の品質と耐久性がまったく異なります。「買ってすぐに認識しなくなった」「少し使っただけで壊れた」というご相談で持ち込まれるお客様の媒体には、そうした共通した傾向がみられることがあります。
「256GB」と表示されていても、データが実際に書き込まれているのはわずかな容量だけというケースが
格安のUSBメモリには、容量の偽装というもうひとつ深刻な問題があります。
パソコンに接続すると「256GB」や「1TB」と表示されるのに実際にデータを書き込める領域はその何十分の一しかなく、製品内部の設定情報を書き換えることでパソコンに大容量であるかのように誤認識させる手口です。最初のうちは問題なく使えるため、購入直後には気づくことがほとんどありません。
たとえば、海外旅行に持参したUSBメモリに写真や動画を保存し続け、帰国してパソコンで確認したところ、旅行の途中から先のファイルがすべて破損していた、というケースがあります。実際に書き込める容量の限界を超えたところからは、データが媒体の上に存在していなかったからです。「保存した」という動作は行われていても実際のデータはどこにも残っておらず、こうしたご相談は当店にも持ち込まれることがあり、決して珍しい話ではないと感じています。
当店にこうしたUSBメモリが持ち込まれたとき、復旧の難しさは通常の媒体とはまったく違う
容量が偽装されていた媒体でデータ復旧のご依頼を受けた場合、実容量を超えた部分のデータはそもそも記録されていないため復旧のしようがなく、「ファイルが消えた」のではなく「最初から書き込まれていなかった」という状況です。当店でこうした状態の媒体を見てきた経験からすると、取り出せる可能性があるのは実際の記録容量の範囲内に限られ、お客様が「保存したはず」と思っているデータをすべて戻せるわけではありません。
部品の品質が粗悪な媒体の場合も事情は変わらず、正規品では見られないような予測のしにくい壊れ方をするため、どこまで情報を読み出せるかが非常に不安定です。USBメモリの復旧では、場合によってはメモリチップを取り外して専用の機器に直接つないでデータを読み出すという作業をおこないますが、部品の信頼性が低い媒体ほど、その作業も難しくなります。信頼性の高い製品と格安品とでは、壊れたときにデータがどこまで残っているかが、大きく異なります。
大切なデータを安心して預けられる媒体を、どう選ぶか
「格安品を買うな」と言いたいわけではありませんが、USBメモリという製品はあなたの大切なデータを預かる道具です。仕事の書類でも、旅先の写真でも、一度失えば取り戻せないものを入れる「入れ物」として、何を選ぶかは考えてみていただく価値があると思います。
同じカテゴリの製品が市場の相場の半値以下で販売されているとき、その差額がどこから来ているかは気になるところです。品質管理のコストが省かれているのか、内部の部品が別のものに置き換えられているのか、安さには必ず理由があり、その理由は使っている側には見えません。信頼できるメーカーの製品を正規の販売ルートで購入するだけで、データを失うリスクは大きく変わります。
すでに格安のUSBメモリを日常的に使っていて、「動作が遅い」「認識しないことがある」という感覚があるなら、何も起きていない今のうちに別の媒体へデータを移しておくことを、念のためお伝えしておきたいと思います。何も無いに越したことはないのですが、万が一データのことでお困りの際は、当店のなんでも相談室からいつでもご連絡ください。
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